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アメリカ:ホームスクルール

「Aちゃんは学校へ行かず、自宅で勉強している」と聞くと、その子どもさんに対してどんなイメージを持つでしょう?不登校、引きこもり・・・日本では、どうしても暗い印象が強くなってしまいそうです。ところがアメリカで会ったホームスクールの子どもたちは、自分がやりたいことに時間を使うために学校ではなく、自宅で勉強をしていました。

 義務教育がスタートしてから18歳で高校を卒業するまでに、学校よりも優先されることとは何でしょう?補習校で教えていたときに、平日はホームスクールで、学校は週一回の日本語補習校だけという生徒がいました。

 一人はTVにレギュラー出演しているタレントで、映画やドラマのオーディションの時間がまちまちで出席時間数が不足してしまうため、ホームスクールに切り替えたのだそうです。ダンスや歌などのレッスンもあり、放課後だけでは渋滞もあって車移動の時間が無駄と判断し、本人が希望したと言います。もう一人は同僚の息子さんで、フィギュアスケートの全米大会入賞を目指し、小学校卒業後ホームスクールに変えました。大会中も勉強面ではそれほどの遅れも出ず、何より本気で打ち込めるとお母さんもうれしそうです。

 National Home Education Research Instituteの調べによると、5~17歳までの子どもの3~4%がホームスクール生で、2020年には総数が2百万人を超しています。パンデミックで強制的に学校が閉鎖されたことで、さらに増加しているようですが、ここで簡単に仕組みを説明しましょう。

 インターネットが普及したいまは毎日配信される授業にアクセスし、教室にいるのと同じように授業を受けることができます。教育委員会が提示する各教科のカリキュラムを理解する教員免許を持った保護者や家庭教師が教えてもよく、場所や時間割などの規定も決まっているわけではありません。日々の宿題は地域の教育委員会やホームスクール協会に送信すればよく、プロジェクトや定着度をはかるテスト、プレゼンテーションもその時々に試験官の前で行い、第三者が学力を判定する機会もきちんと設けられています。もちろん英才教育も可能で、全米スペリングコンテストの優勝者や起業家、ミュージシャンなど多彩な人材が育っています。

 そうはいっても、人と接することが少ないままで成人して果たして社会でうまくやっていけるのか、教師としても親としても気になったので、生徒に聞いてみると、ホームスクール生だけでグループを作った社会見学や体育会があるほか、地域のボーイスカウトやガールスカウトも盛んだし、教会ではボランティア活動も数多くあり、補習校に通う彼女は自分が孤立していると感じたことはないそうです。

 理想的な環境にも思えますが、息子が地元のサッカーチームでいっしょになったホームスクールの小5の男子は「ぼくの夢は学校に通うことなんだ」と言ったそうで、子どもの成長につれ親子で亀裂が生じることは容易に想像できます。ただ、その子が小6から普通校に編入し、夢をかなえたと聞いたとき、なんともすがすがしい気分になりました。

 ホームスクールが全面的に支持されているわけではありませんが、教育の場が学校だけでなく、最小の家庭でも認められていることは事実です。選択肢がふえることで、ストレスを減らし、前向きに努力する子どもが増えることこそが義務教育の目指すところではないのか・・・アメリカで感じたことの一つです。

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